大判例

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東京高等裁判所 昭和32年(う)1034号 判決

被告人 金允植

〔抄 録〕

所論は要するに被告人に対し軽い罰金刑に処せられたい旨原判決の量刑不当を主張するものであるところ、本件記録により認められる被告人の前歴ことに昭和二三年三月二九日静岡地方裁判所浜松支部において強盗罪により懲役一〇年に処せられ、その執行中昭和三〇年三月二九日残刑四年六月一三日で仮釈放を受けているにもかかわらず本件犯行をなした情状に鑑み、原判決が被告人に対し懲役一年の実刑に処したことは、まことに相当であるというべきであるが、当審事実調の結果をも考察するならば、当審にいたつて被告人は実父金正裕、妻ぶん、雇主坂井善郎らの助力により被害者木村作次郎と示談を遂げ、同人も被告人に対する寛大な判決を希望しているばかりでなく、被告人は深く前非を悔悟し、飲酒をやめて更生に努めており、雇主富士鉱業社坂井善郎も被告人の改善の決意を力ずけ、これを善導することを誓つており、被告人の家庭は妻ぶんとの間に十一歳の長男茂雄を頭に本年生れた京子まで四人の子女を抱えて被告人の勤労なしにはその生活も困窮に立ちいたることも窺われる次第で、被告人に対し本件につき原判決のような実刑を科する場合は、多分に前記の仮釈放が取り消される虞があり、かくては被告人の改善の決意も、これに対する周囲の右のような善意に充ちた努力も水泡に帰し被告人の家庭の悲境に陥るであろうことも察せられるのであつて、被告人が仮釈放中に本件のような犯行をなしたことは許しがたいには違いないが、証拠上認められる本件犯行の動機態様等を前記の被告人及びその周囲の憫諒すべき諸般の情状と比較検討するときは、被告人に対しこの際、原審言渡の実刑を科するよりもむしろ罰金刑に処し、被告人の更生に期待するとともに、その周囲の被告人を善導しようとする努力に応えるのが刑罰の目的に適う所以と思料せられるが故に、原判決の科刑は結局重きに失するものというべく論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。

(工藤 草間 渡辺好)

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